楽園を追放された女

あなた、ヌーディストビーチへ行ったことある?

あら、変な想像しないでね。
ネットでヌーディストビーチって検索すると、
ポルノまがいのサイトが出てくるけれど、
本来は、そんなものじゃないの。

私がヌーディストビーチへ行ったのは、かれこれ25年前。
詳しい場所は覚えてないけど、ハワイで、だった。

私、そのころ、スピリチュアルにドハマりしていて、
わざわざハワイまでセラピーの講座を受けに行っていたの。

そこの講師が、私たち参加者を内緒で連れて行ったのが、
ヌーディストビーチだったというわけ。

彼女、日本人なんだけど、髪の長い、きれいな人だった。
世界中を放浪し、インドのアシュラムで生活するような、
型破りな人生を送っている人だった。
ヒッピー文化の申し子のような人ね。

彼女の目から見たら、日本の女の子たちって、
常識に縛られて、小さく固まって生きているように見えたんだと思う。

とにかく、授業そっちのけで、突然、私たちをビーチに連れていったというわけ。

ヌーディストビーチでのルールはたった一つ。
そう、一糸まとわぬ姿でいること。

でも、心の準備もなくそんなところへ連れていかれて、
最初はびっくりして、すごく抵抗感があったわね。

でも、彼女はさっさと服を脱ぎすて、ビーチへ入っていった。
その堂々とした態度に勇気づけられて、一人、また一人と裸になっていったわ。
私は最後までおどおどしていたけど、一人、置いていかれるのもイヤという
極めて日本人的な理由でおずおずと裸になったの。

 

ヌーディストビーチはどうだったかって?

ふふ。ええ、もちろん、男性のあそこも丸見えよ。
でもね、全然いやらしくないの。
突き抜ける青い空。名も知らぬ白い砂浜。
いろいろな肉体がくつろいでいて、誰も何も隠さない。
それは不思議な光景だった。

日本では、決して太陽に晒されることのない部分を、
隠している人は誰もいない。

いやらしさって、隠してこそ生まれるのよね。
私は少しずつ大胆になって、裸でいることに慣れていったわ。

全ての肉体が個性的で美しかった。

りんごを食べる前のアダムとイヴもこんな感じだったんじゃないかしら。

 

だけど突然、「きゃあ」という叫び声で我に返った。

「どうしたの?」

「変な男が望遠カメラで私たちを撮ってる!」誰かが叫んだ。

見知らぬ男が草むらから飛び出し、カメラを握りしめながら走り出した。

ブルーのジーンズにラブ&ピースのTシャツ。
服を着ている彼の方がなんだか卑猥。

急に極彩色の楽園が、色あせたポルノの世界に浸食されたって感じ。

 

ああ、そうだった。

人間は智慧の実を食べて、楽園から追放される運命だったんだ。
なんだか妙に納得したわ。

すると急に恥ずかしさが押し寄せてきたの。

 

それからどうなったかって?

日本人の女の子たちが、キャーキャー騒いで、海に飛び込んだの。

すると大波がきて、中には溺れそうになった子もいたわ。
ビーチにいた男性たちが集まって助けてくれたんだけど、
紳士的な彼らは、日本の女の子たちの振る舞いに目を白黒させていた。

私たちは早々に、ビーチを後にしたの。

今でもね、どうしてかしら、あのハワイのビーチに一人で座っている夢を時々見るの。

あの頃の私は、家族が大嫌いな、
どうしようもない甘ったれ娘だったわ。

そして、天使や大いなる力とやらにやたらと頼っていた。

ハワイで、裸になったくらいで、
心が解放されて問題がなくなるなんて虫が良すぎるわね。

あれは、赤ちゃんに戻りたかった私の現実化。

うふふ。でもね、楽園から追放されて、
ポルノ渦巻くこの世俗の25年が、
私をたくましく鍛えてくれたわ。

ああ、だからね、私が言いたいのは…、

 

本物の楽園は、今、ここにあるってこと。